バクマン。第14話「バトルと模写」の解説と考察

土曜日NHKを見ていると、バクマン。という漫画家を目指す少年たちのアニメがやっています。

まず今までのあらすじを追って、第14話の解説をしていきます。

いましばしお付き合いのほどを。。。

あらすじ

あらすじはWikipediaではこうなっています。


この後はネタバレを多少含みます。(連載中のアニメ、漫画なのでご注意ください)


舞台は埼玉県

舞台は埼玉県谷草市、中学3年生の真城最高(サイコー)は、高い画力がありながらも将来に夢を持たず、ただ流されて普通に生きていくだけの退屈な日々を送っていた。

そんな最高の叔父は、かつて週刊少年ジャンプに連載し、その作品がアニメ化もされた漫画家川口たろうであったが、連載打ち切りとなり、その後の過労により亡くなった過去があった。

本作品はテーマもさることながら、われらが埼玉県が舞台ということなので、とりあげてみました。


埼玉県は全国高校生の平均モデルとして描かれています。


これが東京なら物語は破綻です。特別な条件では成功してもリアルさが足りないからです。



これがあえて埼玉でも谷草市という少し都会すぎず、田舎すぎない場所になっていることもポイントです。



川口たろうとラッキーな人

主人公の叔父の川口たろうが漫画家でジャンプ(ジャック?)に連載していたとあります。

エンディングに出てくる川口たろうはタバコをくゆらせかなりかっこいいです。

書いていた絵柄がこれでした。超ヒーロー伝説。

アニメ「バクマン。」で「超ヒーロー伝説」がOA!?



絵柄がどう見てもラッキーな人に見えるのですが。。。


とっても! ラッキーマン 1 (集英社文庫―コミック版)

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日本で成功するための確率

ある日、些細な出来事をきっかけに、秀才のクラスメイトで原作家志望の高木秋人(シュージン)に、「俺と組んで漫画家にならないか」と誘われる。

はじめは一緒に漫画を描くことを拒絶していたが、声優を目指している片思いのクラスメイト亜豆美保と、「アニメ化したら結婚する」と約束したことから、漫画家への道を志すことになる。


学校で一番の秀才から漫画家にならないかと誘われる。





美人でもなく、歌が抜群でもない場合、漫画家だとシュージンに言われるサイコー。

たしかに言い得て妙です。日本の中高生が社会的にヒーローになる確率は極めて低いです。



囲碁が天才的にうまいか、

ヒカルの碁 1 (ジャンプコミックス)

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死神のノートをたまたま高校の敷地で拾うか、

DEATH NOTE デスノート(1) (ジャンプ・コミックス)

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おじーさんが人間国宝かであればいざしらず、



普通の中高生がヒーローになれる世界は限られています。



スポーツであればまだ可能性がありますが、自分が才能を持って生まれる確率は低いです。



高校生の夢は公務員というリアル

電通の調査だと、高校生のなりたい職業1位は「公務員」らしいです。

また高校生にとって、いちばん不安なことは将来の就職らしく、斜陽国家っぽさが出ています。


産業先進国は例外なく衰退する運命にあるのでしょうか。盛者必衰の理。






ともあれ、社会のなかで、まさに風穴をあけようとする本作品。


秀才のシュージンから誘いがあるのも面白いです。現代の中高生は公務員のほうが人気なのですから。


学校の成績がいい場合は、そのまま公務員で安泰路線が定番のはずです。



ここに現実では非リアルの設定をリアルに追い詰めるアプローチが成功しています。



若者へのすぐれた就職本


これは漫画家ストーリーというより、現代の若者への就職本なのかも知れません。

面接のテクニックだけが就職本ではありません。



いや、若者だけでなく、疲れきった大人たちへの警鐘本かも知れません。


人生はテクニックだけではないのです。


そう、忘れていました。



「夢は実行するものだ」と。



「人生はトライアンドエラーだ」と。





このアニメを見ると考えてしまいます。



ライバルは青森出身、住まいは吉祥寺

二人三脚で苦労しながら完成した初めての作品を、偵察がてら乗り込んだジャンプ編集部に持ち込みをした二人は、敏腕の編集者 服部哲と出会い、漫画家としての資質を認められる。

そんな二人の前に、同年代で型破りの天才プロ漫画家「新妻エイジ」が現れ、互いにライバルとして切磋琢磨することになるのであった。

ちなみに新妻エイジは青森から単身東京の吉祥寺に引っ越してきて、連載をもつことになります。

青森という土地から、高校生が単身で東京に来て、ドリームを叶えるというのも、職業なら漫画家であれば可能性が0とは言い切れません。


ちなみに作者の小畑 健先生は、高校1年生(16歳)のときに、「500光年の神話」で手塚賞準入選しています。

また高校2年生(17歳)のときの投稿作品「CYBORGじいちゃんG」で、20歳から連載をされているようです。


バクマン。は、作者等身大の私小説のような、私漫画なのかも知れません。






さてさて長くなりましたが先週放映した第14話「バトルと模写」を見ていきましょう。







第14話「バトルと模写」

サイコーとシュージンの「この世は金と知恵」という漫画が、少年ジャックNEXTの読者アンケートで3位になったと編集者の服部さんから連絡を受けます。

サイコーは王道漫画を書いて、1番になりたいと服部さんに詰め寄ります。


場面は変わって、見吉(みよし)がシュージンに向かって空手の構えをとっています。

みよしは好き嫌いが出るタイプですが、基本的にいい子です。


みよしは中段突き、回し蹴りを連続でシュージンに撃ち込みます。中学2年のときに空手の大会に出た実績のみよしは本格的です。

シュージンは吹っ飛びました。


シュージンいわく「戦うって怖い」という真理を、バトルに見つけます。



場面は変わって仕事部屋。みよしがサイコーとシュージンに「3位おめでとう」と祝福します。


しかしサイコーは納得していない様子。ドラゴンボールの絵柄を必死に模写しています。

10作品100ページずつ模写すると言っています。

線が多い北斗の拳とか100ページだときついのではないでしょうか。




ともかく、みよしは「前向きに夢に向かっていけるってすごい」と言います。


みよし自身、中二の空手の大会で他の才能のある人を見て、挫折したと告白します。

サイコーと両想いの亜豆美保(あずき みほ)も声優のオーディションに落ちても頑張っていると、みよしから聞きます。



ここで作品の登場人物の線引きがされます。



サイコー、シュージン、あずきは夢に向かっている側の人、みよしは夢を見ないで等身大の現実を生きている側の人。


みよしはこう言います。

「女の子は落ち込んでいるときは好きな人に頼りたい」

「好きだったら、夢なんか叶わなくたっていいじゃん」

と。



現実的な意見だと思います。



逆にあずきなどは、天上人のような感じで「(夢が叶うまで)ずっと待ってる」とサイコーに中学卒業式の日に言います。


どうしてそんなにリスキーな夢への挑戦をするの?と突っ込みたいのですが、そこは彼らが若さというアドバンテージを持っていることと、現実路線のみよしが必死にバランスをとろうとしているところで、この物語は崩壊しないで済んでいます。


みよしの存在が大きいのは、夢を目指すサイコーたちへのツッコミを入れるリアル側のバランス要員なんだと思います。


すなわちみよし以外はすべてボケ役という立ち回りになります。



この物語は漫画ストーリーの「王道」VS「邪道」というテーマが表面にありながら、「才能」VS「努力」や「夢」VS「現実」の潜在的な深いテーマがあるように思います。



リアル世界の代表としてのみよしが夢や才能がないと愚痴をこぼすと、サイコーとシュージンはこう言います。


サイコー「みよし、やさしいじゃん」

シュージン「みよし、胸大きいじゃん


と。優しさも胸も、リアルでは重要な価値があります。


胸はともかく、優しさであれば、がんばれば手が届くものです。

決して超能力とか血継限界とかSPECとかの類ではありません。



SPEC ビジュアルファイル 

SPEC ビジュアルファイル 



夢を追う人がおおい本作において、みよしは牛丼における紅しょうがの役割を果たしていきます。



編集者の意見

サイコーたちは王道となるアクション漫画を書いて連載すべく、模写したアクションをベースに漫画を書いていきます。

3年後は王道で連載をしたいと服部さんに告げます。


連載して夢を叶えないと、あずきと付き合えない部分が大きいと思います。

恋を優先するのがみよし、夢の後に恋という優先順位がサイコーです。

後者の思考につきあえる女性は、現実では少ないと思います。



服部さんは、邪道の漫画でいくべきだと伝えます。王道を書いても競争相手が多いからだと指摘します。

強大な敵(ライバル)に対抗するランチェスターの一騎打ち戦略のようで、合理的です。

織田信長今川義元に対して、桶狭間の狭い道で奇襲をかけたのと同じです。


小さな会社こそがNO.1になる ランチェスター経営戦略 (アスカビジネス)

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しかしサイコーは王道で行きたいと貫きます。


あずきと付き合うには夢を叶えないといけない、夢は漫画家として連載をもつこと、最短で連載を持つには読者アンケートで1位をとらなくてはいけない、1位をとるには王道のアクション漫画でないといけない、という思考です。



この直線的な思考が、清々しいとさえ言えます。


直球勝負です。

しかし服部さんはプロなので、現時点でのサイコー達の才能の力量を見誤っていません。


運でふりわけられた新妻エイジの編集担当とは違います。


ライバルとの邂逅

サイコーたちは、服部さんとの打ち合わせ中に、ジャックNEXTで1位をとった新妻エイジと、ばったり出会うことになります。


同年代のライバル登場です。


新妻は天然ぶりを発揮し、サイコーたちの作品「この世は金と知恵」をほめたたえます。


目の前で2話分のネーム(セリフとコマだけのラフなもの)を30分で書いてしまいます。



立ち去った新妻に対し、サイコーたちは天才の意味を知ります。


服部さんは冷静にあれが天才だといいます。また模写をベースとしたサイコーたちのネームをつまらないと分析します。



それでも服部さんにサイコーたちは食い下がります。



新妻エイジは「ライバル」だと。



圧倒的な才能を前にしても、サイコーたちは引き下がりません。

それは相棒がいるから、夢を約束した恋人がいるから、叔父さんの敵討ちだから、いろいろな動機があると思いますが、
決して諦めません。半年の猶予をもらい、再トライを誓うのでした。


おまけ

本アニメのエンディングテーマは「現実という名の怪物と戦う者たち」となっています。

漫画を通して、現実にどう向き合っていくかがこの作品の根底を支えるテーマだと思います。


それは中高生はもちろん、就職を控えた人や、バブルを知らないゆとり世代、疲れきったロスジェネ世代、
子供を持つ親の世代にとっても考えさせられるテーマだと思います。

現実の怪物とは、誰もが戦わなくてはいけないのですから。